タテの糸はあなた ヨコの糸は『齊藤麻弓』です。

わかりやすく織物について解説していこうという試みです。私的解釈に基づきます。

傷口に布 ②

奈良国立博物館で開催中の『正倉院展』に行ってきました。麻弓です。

この展覧会は正倉院という東大寺(大仏さんのあるお寺)の倉庫のようなところに納められている、奈良時代の貴重な宝物を毎年ちょっとずつ公開してくれるという素晴らしい展覧会です。
この宝物の中にはもちろん織物もあるのですが、これがまた、今の技術では再現できないほど高度な技術で作られたものがたくさんあるのです!1300年も前のものなのに!
いいものを作ろうという情熱と手間暇を惜しまない昔の人々の精神に感激します。見習いたい!
とはいえ、毎年あまり代わり映えしない感もあるし、すごく混みあっているので、今年は行かなくてもいいかなぁ~とか思ったりしてしまうのですが、なんだかんだで毎年足を運んでいるんですよね…


さて、前回に引き続き、傷口にあてる布…『ガーゼ』のお話です。
ガーゼとか、バンソウコウの傷にあてる部分に使われたりしている布(ふかふかな部分の表面) は、最も基本的な織り方で出来ている織物です。
あ、でも、最新のいいバンソウコウだと違う場合もあるので、そこらへんはあしからず。


はい、本題!
まずは織物ってどういうものかといいますと…

織物はタテの糸とヨコの糸の組み合わせで出来ています。
この組み合わせ方の違いで、色々な種類の織物に分けられます。
その中でも一番単純な組み合わせ方で織られているもののひとつがガーゼです。

タテの糸とヨコの糸を組み合わせる。ということは、タテ糸とヨコ糸を交差させるということです。
まず、一本のタテの糸について考えます。
このタテ糸に1本のヨコ糸を交差させるとしたら、そのパターンは2通りしかありません。
A タテ糸の上にヨコ糸を交差させる
B タテ糸の下にヨコ糸の交差させる
この2つだけです。
全部のタテの糸一本ずつにこのパターンがあてはまります。

もし、はじめの一本のタテ糸の上にヨコ糸を交差させて(A)、そのお隣のタテ糸でも上にヨコ糸を交差させ(A)、さらにそのお隣のタテ糸の上にヨコ糸を(A)…
なんてことをして、ずぅーっとタテ糸の上にヨコ糸を交差させていったとしたら(言い換えると A だけをくりかえしたら)、それはもう交差させたとは言えません。
ただ、並んだすべてのタテ糸の上に一本のヨコ糸を乗せただけになってしまいます。
これでは、タテ糸とヨコ糸はバラバラな状態です。
なので、どこかのタテ糸に対してヨコ糸を下に交差(B)させなくてはダメです。

必ず、一本のヨコ糸について、AとBのどちらともが必要になります。

そして、一本のタテ糸についても、AとBのどちらともが必要です。
これもどちらか一方だけだと、そのタテ糸はヨコ糸の下に置かれているだけになるか、上に乗っているだけになってしまいます。

要は、糸が見るからに糸だなぁという状態で、ベラベラっとし続けていなければいいんです。

極端な話をすると、
タテに糸が10本あったとします。
そこにヨコに糸を10本通すとします。
ヨコ糸①はタテ糸①の上を通って、他の9本のタテ糸の下を通る。
ヨコ糸②はタテ糸①の下を通って、タテ糸②の上を通り、残りの8本のタテ糸の下を通る。
ヨコ糸③はタテ糸①②の下を通って、タテ糸③の上を通り、残りの7本のタテ糸の下を通る。
……
ヨコ糸⑩はタテ糸①~⑨の下を通って、タテ糸⑩の上を通る。
という組み合わせ方をすると、
それぞれ、ヨコ糸はタテ糸1本の上を通り、その他のタテ糸9本の下を通ります。
タテ糸はヨコ糸9本の上にあって、たった1本のヨコ糸の下にあります。
つまり、ヨコ糸は下側にかなりベラベラっと浮いている状態で、反対に、タテ糸は上側にベラベラっと浮いている状態だということになります。
しかし、それぞれ、たった1本分はベラベラしている方の反対側にちゃんとあるのです。
ということは、これは織物だということです。

織物の仕組みがわかってもらえましたでしょうか?

しかし、この糸がベラベラとした織物が、布としてどうかというと…ちょっとなぁ。

このベラベラと正反対にある織物がガーゼなんです!

はい、つづく!